試用期間の解雇は法律違反?解雇を撤回してもらうための対処法

試用期間の解雇、どうしたらいい?

新しく従業員を雇用する際に、本採用前に適性や能力などを見定めるための「試用期間」を設けている会社があります。

試用期間とは、法律上では「解約権留保付労働契約」だと定義されており、試用期間中の従業員について本採用に適さない理由がある場合は、企業が解約権の行使(本採用の拒否)ができる契約です。

試用期間は、本採用時よりも簡単に解雇が認められるイメージを持つ方も多いかと思いますが、どのような理由でも解雇が許されるわけではありません。

試用期間中であったとしても、合理的な理由がなく、社会通念上相当といえない場合の解雇命令は無効となります。

今回は、試用期間に解雇を言い渡された時の対処法や失業保険を受け取れるかどうかについて解説していきます。

試用期間中のおもな解雇理由

まずは、試用期間の解雇理由として正当に認められる3点について知っておきましょう。

試用期間中の解雇理由1.能力不足

能力不足は試用期間中の代表的な解雇理由のひとつ。

試用期間に期待されていた働きができなかったり能力不足を感じる部分があったりすると、それを理由に解雇されてしまうことがあります。

ただ実際には、能力不足による解雇はそう簡単に認められるものではなく、裁判所が能力不足による試用期間中の解雇に関して判断を下す場合には、企業が適切な指導や教育を行っていたかをチェックします。

未経験者・経験者問わず、新しい会社に慣れるまでは誰しもが時間を要するうえに、業務に慣れるためには先輩社員や上司のサポートが欠かせません。

企業が試用期間中に適切な指導や教育を行っていない、または極端に短い期間で能力不足による解雇を言い渡した場合、不当解雇と判断される可能性は高いでしょう。

なお、高度な専門知識・経験を期待して採用となった人材に関しては、試用期間の解雇が不当解雇と認められないケースもあります。

試用期間中の解雇理由2.勤務態度

使用期間中に、何度も遅刻や早退、欠勤を繰り返していれば、勤務態度に問題があるとして解雇を言い渡される可能性があります。

しかし、試用期間中にやむを得ない事情で数回の遅刻や早退、欠勤があっただけで解雇したとなれば、不当解雇と判断されるかもしれません。

また、遅刻や早退などだけでなく、上司や教育係に反抗的な態度をとったり、周りの社員とのコミュニケーションを怠ったりする協調性のなさも解雇理由となりえます。

試用期間中の解雇理由3.経歴詐称

採用時に職歴や学歴などの経歴詐称を行い、それが試用期間中に発覚した場合、解雇となるケースがあります。

経歴詐称を理由に解雇できるのは、「学歴」「職歴」「犯罪歴」の重要な経歴に関する詐称があった場合に限られていますが、これらを行った場合は解雇を受け入れるしかないでしょう。

試用期間中の解雇理由4.病気が発覚・発症した

採用面接時には申告されなかった病気が発覚し、本採用となっても十分な労務提供が期待できないような場合には、解約権行使の正当理由として認められる可能性があります。

試用期間中の解雇は失業手当を受けられる?

試用期間中に解雇を言い渡され、過去1年間で雇用保険加入期間が6ヶ月以上ある場合は、失業手当の受給が可能です。

失業手当をもらいながら生活をして、転職活動などを行うこともできますが、交渉や法的措置の結果、雇用先から解雇が撤回されれば失業手当は返却します。

試用期間中でも解雇・本採用拒否には予告・手当が必要

試用期間中であっても、勤務開始から14日を過ぎている場合、会社が当該労働者を解雇又は本採用拒否とする場合には30日前の解雇予告をするか、予告期間短縮分の解雇予告手当の支払いが必要です※。

そのため、試用期間中であってもすでに就労開始から2週間以上経過しているのであれば、何らの補償もなく「今日付で退職」「明日から来なくていい」という対応はできません。

※あくまで手続的な問題であり、解雇予告や予告手当をしなかったことが、解雇・本採用拒否の効力に直接影響するわけではない。

試用期間中に退職勧奨を受けた場合

会社のなかには「試用期間中でも正当な理由が無ければ解雇できない」ということを認識しており、退職勧奨によって従業員を退職させようとしてくるケースがあります。

退職勧奨を受けたからといって、従業員に応じる義務はなく拒否することも可能です。ただ繰り返し退職を促されたり、不当な扱いを受けたりした結果、応じざるを得ない状況に追い込まれることもあります。

行き過ぎた退職勧奨は、退職強要となり違法とみなされ、損害賠償請求ができる可能性もあるので、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

試用期間後の本採用を拒否

本採用の拒否は、実質解雇と同じです。

試用期間終了後に「期待していた働きができていなかった」「今後の成長に期待できない」などの曖昧な理由では、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当とはいえないとして、不当解雇となる可能性があります。

試用期間を延長される

本採用の判断が難しいという理由で、試用期間が延長されることもありますが、試用期間の延長は、会社の判断で勝手にできるわけではありません。

試用期間を延長するには、以下の条件を満たしている必要があります。

・試用期間を延長する場合がある旨を就業規則や労働契約書に記載している
・試用期間を延長する合理的な理由がある
・延長する期間は当初の試用期間に加えて、おおむね1年以内

もし、上記の条件に当てはまらず、試用期間を延長されているようであれば、本採用に移行できないか掛け合ってみるといいでしょう。

試用期間中に賃金が支払われない

試用期間の賃金に関しては、本採用後と差を付けることが法的に認められています。

ただし、試用期間中だからといって残業代を支払われなかったり、最低賃金を下回っている場合は違法です。

支払われるべき賃金が未払いであると会社に相談したにもかかわらず、改善しないようであれば弁護士や労働基準局に相談してみましょう。

試用期間中の解雇を撤回してもらうためには?

どうしても解雇理由に納得がいかない場合は、解雇を撤回してもらうよう会社に交渉したり、弁護士に相談して法的措置をとったりすることも可能です。

まず、解雇を受け入れられない場合は会社に「解雇理由となった行動を改めるので、雇用を続けてほしい」と交渉してみましょう。

それでも働き続けることを拒否され、話し合いが決裂した場合には弁護士労働基準監督署などの専門機関に相談することをおすすめします。

ただ、口頭のみでの説明だと十分に状況を理解してもらえないことがあるため、はじめて相談に行くという場合は、できれば解雇通知書労働条件通知書契約書給与明細など、業務に関する書類・通知を集めて持参しましょう。

また、解雇に至るまでの状況をまとめた時系列表や解雇に理由がないことを示す資料を持参するとよりスムーズに相談が進みます。

試用期間中の解雇を受け入れない場合の行動1.解雇理由証明書の発行

解雇通知書を受け取るなどして会社から解雇を言い渡された場合、できるだけすぐに解雇理由証明書の請求を行いましょう(労働基準法22条)。

解雇理由証明書は、解雇理由について詳細が記載された書面で、労働者が会社に請求してはじめて発行されます。

この解雇理由証明書は不当解雇の証拠になりうるため、不当解雇として法的措置をとる場合は必ず手に入れておきたい書類です。

試用期間といえども、適切な理由がなければ解雇は認められないので、会社がどのような理由で解雇をしようとしているのか知る必要があります。

解雇理由証明書の発行に期限はないため、どのタイミングでも請求できますが、早い段階で行うに越したことはありません。

解雇理由証明書には解雇理由の後付けを防ぐ効果もあり、時間が経ってからの請求となると、理由の後付けができてしまい、不当解雇であることの証明が難しくなるので注意しましょう。

試用期間中の解雇を受け入れない場合の行動2.不当解雇の証拠集め

使用期間中の不当解雇について交渉・裁判を有利に進めるためには、労働者側も積極的に証拠を集めて提出する必要が出てきます。

不当解雇を証明する際に役立つ証拠には、前述した解雇理由証明書に加え、以下のものが挙げられます。

・就業規則
・退職勧奨や解雇について会社と交渉した際の音声データ
・解雇理由について会社とやり取りしたメールや音声データ

証拠を後から集めることは骨が折れる作業なので、早い段階から積極的に集めておきましょう。

試用期間中の解雇を受け入れない場合の行動3.退職を認める言動は一切取らない

復職を目標として解雇の撤回を求める場合は、退職金の請求や解雇予告手当の請求など、退職を認めるような行動は避けましょう。

法的措置に発展した場合に自身の主張と行動のつじつまが合わなくなり、復職が困難な状況になりかねません。

仮に金銭を受け取ってしまった場合は、使用せずに残しておきましょう。

なお、”解雇には納得していないが復職する気はない”という人も、一旦は就労の意思を示しておくほうがよいでしょう。

一番良い方法が、内容証明郵便です。内容証明郵便とは、送った書類を郵便局が証明するので、「言った言わない」のトラブルを防ぐことができます。

試用期間中の解雇が無効となった裁判事例1.証券会社の営業職

他の証券会社で営業職として勤務経験を持つ原告が、被告である証券会社に6か月間を試用期間として営業職で正社員採用された。

被告は原告に即戦力としての活躍を期待していたものの、営業成績はふるわず、今後の改善も見込めないとし、試用期間途中の3ヶ月で原告を解雇。

裁判所は試用期間途中での解雇について、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当是認できないもので無効であるとし、原告の請求を一部認容した。

裁判年月日 平成21年1月30日
裁判所名 東京地裁
事件番号 平20(ワ)5471号
事件名 小規模証券会社管理職解雇賃金請求事件
参照サイト:小規模証券会社管理職解雇賃金請求事件 判例 女性就業支援バックアップナビ

労働トラブルに巻き込まれる前に「弁護士保険」という選択肢

たとえ試用期間中であっても、正当な理由無くして従業員を解雇することはできません。

真面目に働いていたつもりでも、試用期間中に解雇または本採用拒否が行われた場合には弁護士や労働基準監督署などに相談してみることをおすすめします。

また、試用期間中の不当解雇をはじめとした労働トラブルに巻き込まれる前に弁護士保険に加入しておくのも1つの手です。

職場で労働基準法違反にあたるようなトラブルがあった際に、社内の相談窓口や労働基準監督署などに相談しても改善されず、泣き寝入りをする方は決して少なくありません。

しかし、就職や転職が決まった際に弁護士保険に加入しておけば、試用期間中の不当解雇トラブルが発生した場合にもひとりで抱え込まずに済みます。

労働基準法違反にあたるようなトラブルを弁護士に相談しようにも、着手金をはじめとした費用が高すぎてそのまま泣き寝入りする方も多いため、適切なタイミングで弁護士保険に加入することをおすすめします。

いざというときのために自分を守る「弁護士保険」に加入して、健やかな生活を守りましょう。

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