競業避止義務をわかりやすく解説!転職や独立を希望する社員への対処法

競業避止義務とは?

競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)とは、労働者が所属する(していた)企業の競合企業や組織に属したり、自ら会社を設立したりといった行為を禁ずる義務のことで、在籍していた企業の不利益となる競業行為を禁止するために存在しています。

競業避止義務があると、労働者は所属している・していた企業と競合関係にある企業に転職したり、競合企業を自ら立ち上げたりすることはできません。

競業行為とは、自社と競合する他社との兼業や内部情報の持ち出しといった在職中の違反行為や、競合する会社の設立や従業員の引き抜きといった退職後の業務などが存在し、競業避止義務は入社時に交わす誓約書や就業規則によって定めることが一般的です。

特に在職中は、労働契約や就業規則に競業避止義務が記載されていない場合であっても、労働契約の不随的義務として、従業員は守るべき義務とされています。

なお、競業避止義務における競業行為の対象は「在職中の違反行為」と「退職後の競業行為」の2つに分かれます。

在職中の違反行為

労働契約法において、”在職中の労働者は、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない”と定められています。

つまり、組織に所属し行う営業活動のなかで得た顧客データ・機密情報ノウハウ・知識は、企業の財産ともいえる大切なものなので、絶対に外部に漏らしてはいけません。

在職中に身につけた知識やノウハウを活かして同業種で副業を行ったり、SNSで機密情報を公開したりといった行為は、違反行為とみなされる可能性があるでしょう。

在職中については、誓約書や就業規則において競業避止義務を負う旨の定めがある場合はもちろんのこと、そのような定めがなくても、労働者は信義則上競業避止義務を当然に守るべきものとされています。

退職後の競業行為

競業避止義務は労働契約に基づいて発生する義務なので、退職すれば原則競業避止義務も消滅します。

しかし、労働契約とは別に、退職後も競業行為を行わないという合意が双方に成立していれば、退職後も引き続き競業避止義務を負うことになるでしょう。

とはいえ、退職後に競業避止義務を課すことは、日本国憲法第22条において定められている「職業選択の自由」を侵害するおそれもあるため、なかなか判断が難しいのが現状です。

転職先が自社のライバル企業だったとしても、元の就職先に止める権利はなく、退職者が自社で培った技術や知識を活用するのは自然な行動でしょう。

それでも機密情報の漏洩やノウハウの流出を防ぐために、退職者にも競業避止義務を求めたいと考えている企業も多いはず。

また、退職者に競業避止義務を求めることで、近年重要視されているコンプライアンスやガバナンスを強化することにもつながると考えられています。

退職者の競業避止義務契約が有効となる要件

退職後した元従業員に競業避止義務を求める場合には、就業規則や誓約書などにより、「退職後も競業行為を行わない」という合意に至ったうえで成立します。

そのうえで競業避止義務を課す際には、以下6つの要件を満たす必要があります。

守るべき企業の利益があること

営業秘密や企業独自のノウハウなど、企業にとって財産といえる利益のことを「守るべき企業の利益」といいます。

飲食業であれば独自のレシピ、製造業であれば材料の配分などが他社に漏れてしまったら、企業のオリジナリティが損失し不利益を被る可能性がおおいにあるでしょう。

また、企業独自のノウハウなどについても、退職した従業員が競合他社に持ち込んだりしてしまうと、企業の利益を害するおそれがあるため、一般的には企業側の利益として認められています。

従業員の地位

「従業員の地位」とは、競業避止義務を求める必要のある従業員であったかどうかを示しています。

課長や部長など形式的な職位ではなく、守るべき企業の利益との関係で競業避止義務を課す必要があったかという基準で判断されます。

地域的な限定

地域的な限定については、企業の事業内容や職業選択の自由に対する制約の程度などから、その有効性が判断されます。

「元勤務先と同じエリアには出店しない」「同じ県内での競業を禁止する」など、地域的な限定をして競業避止義務を課すケースがあります。

競業避止義務の存続期間

退職後に課される競業避止義務の存続期間は、労働者の不利益の程度などを考慮したうえで、守るべき企業の利益を保護する手段として合理的かという点で有効性が判断されます。

存続期間を「1年以内の期間」としている場合には、肯定的に捉えられることが多いといえますが、これが「2年〜3年」になると、否定的に捉えられる可能性もあるので注意が必要です。

禁止される競業行為の範囲

競業避止義務を求めるためには「禁止される競業行為の範囲」と「守るべき企業の利益」の整合性がとれていなければなりません。

たとえば、競合他社への転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは、有効性が否定される可能性が高いです。

代償措置

競業避止義務を課すことへの対価などが存在するかどうかを示す「代償措置」と呼べるものが存在しない場合には、競業避止義務契約の有効性が否定される可能性が高いでしょう。

競業避止義務をめぐって裁判に発展した際、企業側はこれらの合理性を示して、競業避止義務を求める必要があることを証明しなければなりません。

もし裁判で合理性が認められず、退職者の職業選択の自由を不当に拘束していると判断された場合には、特約違反をした際の条件としていた退職金の減額や損害賠償請求はすべて無効になります。

退職者が競業避止義務の対象になるのかどうかは、そのときの状況や条件により、過去の判例に沿って判断されるケースがほとんどです。

もし、退職者に競業避止義務を求めるのであれば、自社に合わせた特約を定める必要があります。

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